vol.07 インドの洗礼②
ヴィシャカパトナム行きのIndiGOは不思議な便だった。
途中下車があるようで、目的地の前にブヴァネシュワルに停まった。
降りようとするのをCAに制止されてやっと理解した。
ヴィシャカパトナムも終点ではないようで、
僕たちを降ろすとまたすぐ離陸の準備に入っていった。
時計は14:30を指している。
コルカタの空港で両替のスタッフに聞いたところ、
このヴィシャカパトナム空港内には、SIMショップがあるとのことだった。
またぐるっと港内を一周し、そしてまたSIMショップはなかった。
もしかしたら僕の聞き間違いだったのかもしれない。
こうなれば出口で待っていてくれるであろう、
宿にチャーターしてもらっているタクシードライバーにお願いして
SIMショップに連れて行ってもらうしかない。
挨拶もそこそこに、SIMが売っている店を知っているか聞くと知らないというので、
SIMメーカーのAirtelの看板を見つけたら停まってほしいと伝えて出発してもらった。
空港を出て10分もしないうちにショップを見つけた。
これでやっとインターネットにつながる!
タクシーを停めて店に入ると、
2坪くらいの広さにカウンターがあり、
パソコン1台以外なにもない簡素なレイアウトに、
学生っぽい3人が座っている。
日本のショップと設備は雲泥の差だ。
とにかくSIMさえ買えれば文句はない。
「SIMください。」と言うと、2人のスタッフは少し困惑している様子。
英語がちゃんとわからないが、どうやらSIMの購入にはインド人IDが要るらしいのだ。
IDは何とか彼らどちらかのを借りることができたのだが、
今度は通話のみでインターネットができないSIMしかないという。
「それは困る」というと、また困り顔で何やら現地語で相談している。
案を出しては、うまくできずを繰り返し、気づけば30分以上経っている。
なんとかインターネットもできるようにしてもらい、
700ルピー(1ルピー=約1.7円)払って急いで宿へ向かう。
なんと今から5時間もタクシーで走るのだ。
宿では主人が夕飯を作って僕のことを待っていてくれている。
タクシーは海沿いの街ヴィシャカパトナムを出ると、
東ガート山脈をゆるやかに抜けて山岳地帯に入る。
その間ずっと幅4mほどのセンターラインもない舗装路を走った。
道路には人、自転車、バイク、オートリクシャ、リクシャ、トラック、
タクシー、牛、鶏、犬、あらゆるものが行き交う。
日本なら一生分以上のクラクションを聞きながら、
同じようなカオスな集落を繰り返す。
大きなサイババの写真が飾られた門が見えたかと思うと、
ほんの500m先の街路樹の根元には、
100枚は下らないサイババの額縁がガラスも割れて山積みにされている。
たったこれだけの距離でサイババに対する崇拝が天と地の差になるほどの、
何がいったいあったのいうのか。
最初はこれぞカルチャーショック!と興味津々だったのが、
なんだか独特の臭いとスラムな雰囲気に悪酔いし、
なんでこんな所に来たのかと後悔が僕を襲ってきた。
珍味を食べて美味しいと思ったとしても、
ずっとそれを食べ続けるのはしんどいものだ。
早く日本食が食べたい。そんな風に日本を焦がれた。
それでも口にはひっきりなしにインドという珍味が放り込まれ続ける。
これは拷問だ。
「もう嫌だ、帰りたい…」を2時間くらい続けると最終的に、、、慣れた。
いわゆる耐性というものがついた。
さっきと変わらぬ景色を見ても、なにも感じなくなった。
ああ、きっとこれがインドの洗礼なのだ。
そう噛みしめた21時過ぎ、
タクシーは山岳部族の集落のなかに建つゲストハウス、
チャンドーリサイに到着した。