神様がくれたインド旅

~ある夜突然、頭に浮かんだインドの地名“バスタール”  それだけを理由に訪れた初のバックパックの旅。これは、その一部始終をつづった旅日記です~

vol.02 バスタールとバスタオル

ここまでくると、僕は考えることを諦めて浮かんでくるフレーズをただ凝視した。

言葉は順に浮かんでは消える。

あとになるほどフレーズがぼんやりしてピントが合わない。

 

「バ・・・」「・・・ル」「バス・・」と口にして、

絞り出すようにやっと「バスタール」と口を突いて出てきた。

聞いたこともない。

でも地名だということはなんとなくわかった。

 

奇しくも僕はその時タオルを干していた。

「バスタール」と「バスタオル」。

これはやはり妄想なのだろうか。

 

ようやく頭が働き出した。

まず、白い物体についてはよくあることだから気にしない。

背中は確実に温かかった。

ぬるめの岩盤浴に寝たくらいのものだったからこれは間違いない。

 

あとは文字だ。

『時を駆けよ』については、さっきたまたま薬師丸ひろ子の“時をかける少女”を口ずさんだ。

それが影響しているのかもしれない。

歌詞の中に『時代を変えよ』に似たフレーズは無かったと思うが、

それでも『時を駆けよ』に連想したフレーズとして付いて出たと思えなくもない。
やはり問題は『インド バスタール』だ。

 

最近インドについて、正確にはインドの聖者について少し調べたことがあった。

『インド』というフレーズが自分から出てきた可能性はじゅうぶんある。

しかし、『バスタール』は知らない。

 

人間というものは、過去に見たもの聴いたもの、

つまり体験のすべてを実は潜在意識では完璧に記憶していると聞いたことがある。

そういう意味では知っている可能性はゼロではない。

それに干していたタオルに連想して"バスタオル"→"バスタール"と変換、これもかなり臭い。

 

よし、ではこうしよう。

”インド バスタール”でネット検索してヒットしたら”お告げ”、

ヒットしなければ”妄想”と判定する。

 

そう決めたら、心を静めるため丁寧に残りの洗濯物を干して、

事務所のパソコンに対峙した。間違えないようにいつもより慎重に文字を入力する。

 

この一連の不思議な現象を自分なりに冷静に考察したつもりが、

結局最後はただの賭けで決めることになってしまっている。

 

決して不快ではないそんな矛盾を感じながら、

右手の小指がゆっくりとゆっくりとエンターキーを沈めていく。