神様がくれたインド旅

~ある夜突然、頭に浮かんだインドの地名“バスタール”  それだけを理由に訪れた初のバックパックの旅。これは、その一部始終をつづった旅日記です~

vol.22 Bastar村にまだ旅の目的は残っているのか?

Jagdalpurに帰ってくると

、タクシーはそのままホテルに着いてしまった。

おじいちゃんは両替のことをすっかり忘れているようだ。

またすぐに車を出してもらい、

近くの郵便局で停めてもらった。

ひとりで郵便局に入ると、中は人でごった返していた。

ゆうに200人はいる。

 

「両替できますか?」と英語で聞くも、

返事が何を言っているのか全く分からない。

僕の英語もひどいものだが、

インド英語の訛りもすごい。

 

困っているとタクシーのおじいちゃんが来て、

行列をかき分け、窓口に掛け合ってくれた。

 

「この日本人が両替できないと、

運賃が払ってもらえない。急いでくれ。」

 

どうもそんな感じだ。

しかし外貨両替は扱っていないらしい。

あきらめてすぐ近くにあるという銀行までタクシーを飛ばす。

 

それから3件回ったが、どこもダメだった。

Jeyporeまで戻らなければ、

外貨両替はできないらしい。

 

結局ATMでまたキャッシングをすることになった。

この時のおじいちゃんはもう単なるドライバーではなかった。

親が子の面倒でも見るように、

嫌な顔ひとつせず銀行員と掛け合い続けてくれた。

 

もちろん、運賃がもらえないと困るという気持ちが

大きかったのは、間違いない。

でも、つねにニコニコして、

嫌な顔ひとつせず、

まるで楽しんでいるかのようだったのだ。

 

ホテルに戻り、

支払いのほかにお礼のチップを用意しようとしたが、

支払うのはフロントにだった。

 

結局チップを渡すタイミングが見つからず、

去ろうとするおじいちゃんに

心からの感謝を込めて握手をした。

 

フロントに居たのは、

あの間違いだらけのチーフだ。

文句を言ってやりたかったが、

英語が出てこない。

 

せっかくの素晴らしい出来事が台無しになる気がして、

支払いを済ますと

「あのドライバーはとてもいい人だ!!」

と笑顔で言って、部屋に戻った。

 

ベッドに腰を下ろした僕は、

満足感に浸っていた。

もうじゅうぶんこの旅の意味を体験した気がした。

 

1時間ほど身の回りを整えながら余韻に浸ったあと、

やっぱりじわじわとBastar村に行きたい気持ちが再燃してくる。

 

フロントへ行って、

反対されても行くんだという覚悟が伝わるように、

「Bastar村行きのタクシーを呼んでくれ。」と言う。

 

本当は「できればさっきのドライバーをお願いしたい。」

と付け足したかったが、しなかった。

 

フロントチーフはやはり反対したが、

最後にはやれやれといった顔で手配を承諾してくれた。

その代わりにフロントの隣の観光案内室の男と話すように言われた。

 

僕はそのスタッフに

「Bastar村が何もないところだと知っている。でも行きたいんだ。」と伝えた。

しかし早口で低い声のインド英語で彼が何を言い返しているのかわからない。

 

「英語はうまく話せない。」と言うと、

あきれた顔で

「君がなぜBastar村に行きたいのか、私にはまったく理解できない。」

と言い放った。

 

僕は笑顔で「ありがとう!」と言って席を立ち部屋に戻ろうとすると、

廊下ですれ違ったチーフが声をかけてきた。

「さっきと同じドライバーを手配したよ。」