神様がくれたインド旅

~ある夜突然、頭に浮かんだインドの地名“バスタール”  それだけを理由に訪れた初のバックパックの旅。これは、その一部始終をつづった旅日記です~

vol.06 インドの洗礼①

「日本に帰りたい…」

 

僕がそうつぶやいたのは、

コルカタから国内線でヴィシャカパトナム空港に着き、

そこから最初の宿泊先であるチャンドーリサイに向かうタクシーの中のだった。

インドに着いた初日のことである。

 

逆三角形のインドでコルカタは右の角とすると、

そこから下の角までの辺の中間にヴィシャカパトナムがある。

バスタールはそこから少し中心に入ったところにある。

 



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今に至るまでずいぶん長く感じる。

関空からタイでトランジット、

コルカタに到着したのは現地時間で10月31日0:45頃だった。

 

心配していたアライバルビザは想定通り1時間ほどかかったが、

やはり事前申請の手間を考えると楽なものだ。

どうせ次の国内線まで10時間もあるのだから、暇つぶしになってよかった。

 

無事に入国審査を経て次の暇つぶし、SIMカード購入に向かう。

事前の調べでは、主要空港では港内にショップがあるらしい。

見落としのないように全部回ったが、見つけることができなかった。

 

これは大きな誤算だった。

空港のフリーWi-Fiは2時間制限だったので、

宿泊先に予定通り向かっている旨のメールを打ち、

SIMショップが空港近くにないか調べていると、

もうタイムオーバーになった。

 

まるでマッチ売りの少女が、

最後のマッチの消えるのを眺めるような切ない気持ちでスマホをしまい、

ベンチでふて寝しては、徘徊し、同じ店でコーヒーを買うというのを

何度もルーティーンする。

こんなことならイモトのWi-Fiにしておくんだったと後悔しても後の祭りだ。

 

しかし不思議なのは眠いのに寝られないことだ。

知らぬ地で、言葉も通じないという緊張感が抜けずにいた。

そのぶん疲れが溜まってきているのがよくわかる。

せめて日本人でも居てくれればいいのだが、

深夜のコルカタの空港には、極東アジア人すらひとりも見当たらない。

居るのは、手すりの隙間にすっぽり入り横長ベンチで器用に横になるか、

あるいは地べたで横になる中央アジア人ばかりだ。

 

起きているひとは日本人が珍しいようで、

ずっとこっちを気にしているように見える。

それがまた緊張感を高めては眠れない、の悪循環をずっと繰り返し、

コルカタにやっと朝が来た。

 

国内線のセキュリティチェックを済ませたのは9時前。

同じ空港でもエリアが変わると新鮮味がでて、

時間が過ぎるのも少し速く感じる。

 

フライトまであと1時間という時に、ゲート付近の人々がいっせいに移動し始めた。

どうやらゲートが変わったようで、若いインド人青年が親切に教えてくれた。

さらにもう一回出発ゲートが変わったあと、

ヴィシャカパトナム行きの飛行機はコルカタをあとにした。

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長い長い乗り換え時間の末、

やっと乗り込んだ飛行機のなかで自分のシートを見つけると、

そこにはインド人の男性がすでに座っている。

 

インド人の年齢はわかりづらいが、おそらくまだ成人前だと思う。

5回ほどチケットと座席番号を確認したが、間違いなく僕の席だ。

3シートの窓側で間違いない。

 

意を決して「すみません。そこは僕の席だよ。」というと、

「知ってるよ」と返事してきた。

 

面食らってしまったが、「じゃあ、変わってくれるかい。」というと、

「いや、ここに座りたい。窓からの景色が見たいんだ。」と悪びれもせずに言う。

続けざまに「僕の席は隣だから君はここに座って。」と言って平然とまた窓の外を見る。

 

空港の待ち時間と睡眠不足でへとへとのところにこのありさまだ。

いい加減腹が立って「ダメだ。今すぐ代われ。」と語気を強めていうと、

しぶしぶ隣の自分の席に移った。

 

気を落ち着けようと窓の外を眺めていると、

どうやら青年の父親らしい人が現れ、青年の隣に座った。

この青年、窓の外を見たいという自分勝手な理由で、

青年・僕・父親の順に座らせようとしたのだ。

 

父親と会話をしては窓の外を眺める、

その狭間にいる気弱な日本人の気持ちを想像してほしいものだ。